Creativity and Capitalist City ―スクォッターと創造都市

今回はアムステルダムの都市に関するドキュメンタリー映画”Creativity and the Capitalist City” (2011年制作, 監督:Tino Buchholtz)を紹介します。

(c) Creativity and Capitalist City

本映画では、リチャードフロリダの主張するようにクリエイティビティが現代都市の発展のキーであることを認めつつ、「何がクリエイティブな活動を成り立たせるのか?」という点に具体的にフォーカスしています。近年都市計画・都市社会学などの分野では、「創造都市(クリエイティブ・シティ)」という概念が大変話題となっています。映画内でも再三引用されている、米国の社会学者リチャード・フロリダは『クリエイティブ資本論』(邦訳2008年)や『クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める』(邦訳2009年)のなかで、現代都市ではクリエイティビティが地域発展の重要なキーであることを主張しています。日本でも近年「創造都市論」として注目されています。

舞台はバブルの余韻が残り、都市開発、資本集積、都市のブランド化が進んでいる”資本主義”都市アムステルダム。グローバルマネーの流入で続々と立ち上がるモダンな建築プロジェクトや、多くの観光客で賑わう美しくメンテナンスされた中世の街並みによって、アムステルダムの街は一見たいへん「クリエイティブ」に見えます。しかし一方で家賃が高騰し、「普通の」市民やアーティストが自由に使える空間が縮退していることが指摘されています。

(c) Creativity and Capitalist City

この映画では、スクォッター(英: Squatter, 独: Hausbesetzer)の活動を大きく取り上げています。スクォッティングとは日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、60年代に始まった社会運動の一つで、(大抵の場合は不法に)都市の空き家を、政治的メッセージの発信やアート・文化活動などのために、自分たちの「ねじろ」に作り変えて住み着く事を指します。

(c) Creativity and Capitalist City

アムステルダムのスクォッターは占拠した空間をアトリエ、ギャラリー、飲み屋、ライブハウス、舞台などに作り変え、独自の文化を発信してきました。映画を見ていくと、スクウォッターのこのような活動が、グローバル資本主義に飲み込まれていく都市空間に抗い、人々が自由に使える空間を確保するための運動としての側面がある事が浮かび上がってきます。

興味深い点は、そもそもは不法占拠をベースにした運動だったにもかかわらず、現在ではスクォッティングのポジティブな側面を行政や市民が認めていることです。アムステルダム市議員(労働党)の女性は次のように語ります。

「我々は明確にスクォッターの規制に反対している。スクォッターの活動は、人や物を傷つけない限り、都市にとってむしろ歓迎されるべきものだ。」

(c) Creativity and Capitalist City

またアムステルダム市は、駆け出しの芸術家や小規模な文化活動を支援する”Breeding Place“(直訳:育成所)というプログラムを行なっています。このプログラムが支援しているのは、いわゆるハイカルチャーではなく、むしろオルタナティブな活動です。代表のSchoufour氏(アムステルダム市, Breeding Place代表)は次のように語ります。

「Breeding Placeプログラムは、スクォッティング運動の思想を受け継いでいる。本来出会わないはずのスクォッターと建物のオーナーの双方に呼びかけ、空間の有効な活用について交渉するテーブルを作ることが、Beeding Placeの役割だ。

(c) Creativity and Capitalist City

また同プログラムの支援を受けているプロジェクトとして、アムステルダム中の空き家をリストアップし、改装し、文化活動する人々に空間を斡旋したり具体的な支援を行なっている”Urban Resort“という団体が紹介されています。

「この周辺の文化施設は全部スクォッターがつくり、後に合法化されたものだ。アムステルダムの文化的インフラは、全部スクォッティングによってできたものだといっても過言じゃないよ。」

と豪語するのは、元スクォッターで、現在Urban Resort代表のDraaisma氏です。

(c) Creativity and Capitalist City

このように、映画を通して見えてくる事は、都市をグローバル経済にまかせて開発していくと、むしろクリエイティビティを生み出す空間が減少していくという危機感を、スクォッター達だけでなく行政サイドの人々も共有しているという事です。また空き家、廃棄された工場といった都市の「間」が、新たな都市の文化・芸術活動に大きな役割を果たしている現状も映しだされています。

映画の後半、元造船所の空間が、大勢の沢山のアーティストによってアトリエやギャラリーとして再利用されている”NDSM“というプロジェクトが紹介されます。仕掛け人の一人、芸術家のSturat氏はクリエイティブ・シティについて次のように語ります。

「クリエイティブ・シティが”存在する”という考え方は乗り越えなくちゃいけない。クリエイティビティは僕ら一人ひとりが持ってるものだ。今問題なのは、人々が都市を設計されるべき”プロジェクト”だと考えがちであることだ。そうではなくて僕は、都市はむしろ偶然や予測できないもの、時に望まざる混乱が起こる場所だと思う。」

(c) Creativity and Capitalist City

クリエイティブな都市とは何か、そもそもクリエイティビティとはなにか。この映画は、ヨーロッパ随一のグローバル都市であるアムステルダムの現状から浮かび上がってくる、多くの問を我々に投げかけてきます。

WEB :Creative and the Capitalist City

日本語字幕付き本編 : Vimeo “Creative and the Capitalist City [Japanese]

(大谷 悠)