「クンツ・シュトッフェ」は、2009年からゲオルグ・シュヴァルツ通り沿いの隣り合った3つの物件(GSwS 7, GSwS 9, GSwS 11)で文化プロジェクトを展開している
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GSwS 7は通称「クンツ・シュトフェ・ハウス」と呼ばれ、2009年に所有者の不動産会社(LWB:東ドイツ時代の住宅公団)と99年間の賃貸契約を交わし、「クンツ・シュトフェ」が事実上一棟まるごと買い上げている。通常の賃貸契約と同様に毎月家賃を払うものの、内部を自由に改装でき、部屋を他者に又貸しすることも可能である。地上階の店舗部分には「クンツー・フォン・カウフンゲン」というギャラリー兼ショップが入り、住戸の部分はアトリエ・工房として玩具デザイナー、陶芸家、画家などの人々に貸し出している。住戸部分の家賃は2.5ユーロ/㎡(ライプツィヒの平均は5ユーロ/㎡)と非常に安くおさえられていて、駆け出しのアーティストや若いデザイナーが集っている。中にはそれまでハウスハルテンのヴェヒターハウス(前編参照)を借りていたが、契約が切れ追い出されたため、手軽な家賃で利用できるアトリエを探して入ってくる人もいるという。内部の改修工事は、1904年の建築当時の状態に戻すことがコンセプトで、暖炉や天井の装飾、扉や床のフローリングなどを手作業で時間と手間をかけたリノベーションが行われている。
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GSwS 9の店舗空間は2009年からソーシャルルームとして使われ、期的にイベントが開催されている。以前は工房として使われていた部屋を厨房に作り変え、現在では毎週土曜にブランチを提供している。夏には80人以上がやってきて、中庭で食事とおしゃべりを楽しむ。食事は募金と引き換えに提供され、集まるお金はこの場所の家賃と光熱費や改修工事費に当てられている。厨房には現在では滅多に見かけることのなくなった暖炉と一体化した調理コンロがあり、冬場はパンやケーキを焼きながら室内を暖める暖房の役割も果たしている。他にもコンサートや映画上映などのイベントに使われている。文化はすべての人々にオープンであるべきという考えから、入場料はとらない。
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GSwS 11の店舗空間は、「家庭から必要なくなったモノ」が集められ、再利用することをコンセプトとする誰でも使える工房となっている。ここには世の中に大量に生産されていて各家庭に余っているポタンや布などが沢山集まってくる。最初の頃は新聞に材料提供を呼びかける記事を掲載し、定期的に車で集めて回った。高齢者は特にモノを簡単に捨てないが、有効に利用してもらえるならと協力する人は多く、今では直接材料を届けに来る人が増えてきている。この場所は毎週水曜に開放されており、自由に材料を使って作品を制作できる。他にも、月に一度テーマを設けたワークショップを開催している。幼稚園の子どもたちが定期的に訪れては、好きな材料を選んでごっそり持って帰ったり、場所を借りて自分たちでワークショップを開催したいという問合せも多い。アーテイストが制作した作品は募金と引き換えに販売され、収入はこの場所の光熱費に当てられている。ただし建物全体にまだ電気と暖房がないため、インフラの設備が急務である。上階は住居として貸し出される予定であり、改修工事が進んでいる。
このように「クンツ・シュトッフェ」の活動は、「お金がなくても文化的な生活を享受できるような空間を地域に開く」というコンセプトで貫かれている。ゲオルグ・シュヴァルツ通りには低所得者が多く、住民の3人に1人は生活保護や失業手当で生活している。「クンツ・シュトッフ」メンバーの一人、ローマン・グラボーレ氏は、通りにたむろするアルコール依存症の人々を支援するケースワーカーに同行し、「クンツ・シュトッフ」の活動を紹介してまわっている。「高齢者も失業者もアルコール依存症の人々の人々も、皆地域の一部なのです」と彼は語る。
(大谷 悠)
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